特別なワンアウト
更新日:9月2日
ジュニアチャンピオンシップ江東大会が開幕。

ファイターズは4年生以下30名。全員がこの大会のグラウンドに立てるわけではない。さらに4年生だけでも15名いるので、全員が試合に出られるとは限らない。でも、選手全員を試合に出してあげたい。そう願う監督やコーチの目指す試合の理想は、「序盤で大差をつける」こと、そして「一つでも多く試合ができるように勝ち進む」こと。その目標に向けて、この日まで、夏休みの平日も練習を重ねて準備してきた。
スタメン常連組はもちろんだが、なかでも人一倍準備してきた選手がいる。4年生のS選手だ。
彼は他の主力メンバーよりも少し遅れて入部してきた。当然、最初はゴロもフライもバッティングもままならない。試合が組まれても、特に公式戦のような大舞台では、なかなか出番に恵まれなかった。
ベンチの中で彼だけ試合に出してあげられなかった日もある。それでもS選手はベンチワークを頑張り、ボールボーイをしてチームに貢献した。出場時間ゼロの日も、不貞腐れることなくチームに帯同し続けた。
コーチ陣は、その姿だけでなく、彼の影の努力を知っていた。毎朝、早く起きて自主練に向かう。他のメンバーが起きられない日も、お父さんか、お母さんとSだけで朝練へ向かった。試合に出たい、早くみんなに追いつきたい。その気持ちは、言葉ではなく姿勢に表れていた。
1回戦。ファイターズが初回、四番のホームランなど、順調に点を重ねる。失点もなく、6点差をつけて終盤へ。

出番は突然やってきた 監督にもコーチにも少し余裕が生まれたタイミング、そのチャンスは来た。 「S、いくぞ!」
励まされて、彼はライトへ向かった。
リードしているとはいえ、一つのエラーで流れが変わるのが大会だ。Sを送り出す内心は、正直なところ不安だった。
マウンドには二番手の投手。投げた初球は弾き返され、強いライナーが代わったばかりのライトへ飛んでいく。
「あ、やばい...」
誰もがそう思った次の瞬間 —— S選手が突っ込みながらボールをガチッとキャッチ!
自分でも驚いたような満面の笑みで、両手を高々と突き上げるS。湧き上がるベンチ。まるで優勝したかのような喜びようだった。

「ワン、アウト〜!」 S選手がグラウンドの仲間たちに呼びかける。

「ワン、アウトー! やった!S、やったねー!!」ベンチもそれに応える。

コーチも監督もママさん達も応援団も大興奮。たったワンアウト、されどS選手にとっては初めての公式戦でのフライアウトだ。あのSが、捕った。みんなが待ち望んでいた瞬間。涙して喜ぶコーチ。
興奮さめやらぬまま、続く打者の3球目。今度は強いゴロが、一・二塁間を抜け、再びライトのS選手のもとへ。前進して素早く捕球し、ファーストへ送球!
送球は、少し逸れるも、ファーストY選手がジャンプ。塁審の拳が挙がる ——「アウト!!」

再び爆発するベンチ。「やったーー!!」と、再び両手を挙げて喜ぶSと、ファイターズの選手たち。
「ツー・アウト〜!」これから生涯、何度も声に出すであろう言葉の今日が、その第一声。やったね、S選手。

影の努力家、今日のヒーロー
試合は10-3で勝利。登録選手全員がグラウンドに立ち、S選手に限らず、それぞれが活躍した。ファイターズの強さをまた一つ確認できた一日。
そして間違いなく、この日のヒーローはS選手だった。活躍したから、だけではない。努力は裏切らない——それを、彼が皆に証明してくれたから。そしてグラウンドで野球を楽しむ最高の笑顔を見せてくれたからだ。
S選手はその後もメキメキと上達し、いまやスタメン組を脅かす存在になりつつある。皆、うかうかしていられない。
さあ、次戦のヒーローは誰だ?!




















