勝って、もっと上を目指す
今年1月、別のチームから一人の選手が移籍してきた。4年生のA。「勝って、もっと上を目指せるチームに入りたい」。それが移籍を希望した理由だった。
Aは4年生とは思えないほど体が大きい。キャッチャーも内野も外野もこなすオールラウンダーで、バットに当たれば打球は遠くまで飛ぶ。そして何より野球脳の持ち主で、ルールや野球の知識が豊富だ。チームの要になれる選手として、ファイターズは三顧の礼でAを迎え入れた。
3月、京葉キッズリーグの準決勝では、センターを守り、最終回、外野へ高々と飛んできた打球をキャッチして勝利も掴んだ。ショートのYがAに抱きついて喜ぶ姿からは、入部してわずかな期間でもAがすっかりチームに溶け込んでいることが伝わってきた。

4月の深川春季大会では、2度のタイブレークにもつれ込む痺れる展開でマスクをかぶった。緊張する場面でSの球を受けるのが楽しかったと話すAは、正真正銘の野球小僧だ。
スーパーリーグで掴んだ5つの勝利も、Aが正捕手に座ったことで3人のピッチャーが自在に登板できるようになり、打っては四番Aの長打で得点を重ねた。ファイターズが常勝チームへと急成長できたのは、Aの加入が大きな理由の一つだったと言って間違いない。

8月、別れの知らせは突然やってきた。Aのお父さんの転勤で、家族そろって東北へ引っ越すことになったという。チームに激震が走った。Aは泣きながらそれをチームに伝え、聞かされた選手たちも泣いていた。
ジュニアチャンピオンシップが、Aと一緒に野球ができる最後の大会となる。一つでも多く勝つことは、Aとの野球ができる時間を増やせること。「勝って、もっと上を目指す」。Aがファイターズに入った目的は、この日からチームのスローガンになった。

初戦を快勝したファイターズは、2回戦も順調に試合を進めた。Aはこの日も四番・キャッチャーで出場。YとSがホームランを決めると、「自分もやってやる」とばかりに放った打球は外野手を抜けた。ダイヤモンドを駆け抜けるAの足は、いつもより速く見える。ファイターズが大切にする「いつでも全力プレー」を体現したランニングホームランで、2回戦の勝利を確実なものにした。

9月22日、準々決勝。勝てば上部大会出場が決まるこの一戦で立ちはだかったのは、三度目の対戦となる最強チーム・深川ジャイアンツ。これまで2つの大会で、いずれも決勝戦で完封負けを喫している相手だ。

この日も初回から先制を許し、0-3。しかし3回表。Yのタイムリーで、ついにジャイアンツから初めての得点を奪うと、さらにSが1点差に迫るツーベース、続くNも連打で同点に追いつく。
そして打席には四番のA。この日のために磨いてきたスイングは、練習で驚異の飛距離を見せていた。相手ピッチャーの初球を振り抜くと、打球はレフトオーバーの特大弾。Aの一振りで試合をひっくり返した。これまで1点も取れなかった相手から一挙4得点、4-3の大接戦。ベンチは「イケるぞ!勝てるぞ!!」と大いに沸いた。


しかしその裏、あっさりと追いつかれ、さらに勝ち越しを許す。最後はタイムオーバーで逆転負けとなった。
試合終了の挨拶を終えると、選手全員が涙を流していた。一瞬見えた勝利を逃した悔しさと、これが最後になる寂しさが入り混じる。Aはグラウンドで泣き崩れた。Aとの最後の大会が、幕を閉じた。


負けはしたけれど、過去最高の試合を共に戦ってくれたAを、最後はみんなで胴上げした。Aは何度も「ありがとう」とチームに感謝を伝えた。1年未満とは思えないほど濃い時間を、ファイターズはAと過ごした。
「これからもAはファイターズの仲間だよ」とY。 「ファイターズに入ってくれてありがとう」とS。 「こちらこそ、ありがとう」。チーム全員がAとの別れを惜しんだ。

勝てば上部大会につながった一戦を落としたファイターズ。この悔しさは、明日への糧になる。
「勝って、もっと上を目指す」
ファイターズにやってきた新星が残したこの言葉は、チームのスローガンとして、これからも残る。
勝って、もっと上にいこう。全国大会へ行ってAと再会しよう。




















