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雲、晴れ渡り、笑顔となる

1 分前
読了時間: 3分

深川秋大会2回戦、元加賀・紅チームとの一戦。初回裏、2アウトから相手の3番打者が打ち上げた打球は、三塁側への高いファウルフライになった。


サードのKが追う。打球はKの頭上を越えていく。Kは崩れかけた体勢のまま、グラブを伸ばした。

ボールはグラブに収まり、スリーアウト。


「よっしゃー!」。

ベンチに戻ってきたKを監督が出迎え、ハイタッチを交わした。ドラマならここでBGMが流れ出すところだ。


このワンプレーにたどり着くまで、Kには長い1カ月があった。

Kは野球が大好きだ。ソフトバンクホークスの周東選手に憧れ、俊足を生かしたセンターを目指してきた。

主力のA選手が抜けて、チームには大きな穴が空く。編成を見直す中でKをセンターからサードへコンバートする試みが始まった。

慣れないサードで苦しんだ10月

10月、Kは慣れないサードに苦しんだ。平日も監督とマンツーマンで特訓を重ねた。それでも、試合になるとなかなか成果が出ない。

簡単なゴロをエラーし、捕れても悪送球。負の連鎖は打席にも及び、バットも湿りがちになった。

Kは失敗すると落ち込みやすい。プレーの合間にベンチをチラチラと見てしまうのは、大人の期待に応えたいという気持ちの表れでもある。うまくいかない日が続くほど、Kの表情は曇っていった。


監督にも迷いが出てきた。Kはやはりセンターのほうがいいのかもしれない。サードには別の選手を置くべきか――。

それでも監督は、この2回戦でKをサードのスタメンに起用すると決めた。集中したときのKは、抜群のプレーを見せる。監督はそのことを誰よりもよく知ってKに賭けた。



ベンチではなく、ボールだけを見ていた

この日のKは、ベンチではなくボールだけを見ていた。

2回裏はランナー2・3塁のピンチ。ピッチャーゴロで飛び出した三塁ランナーを三本間に挟み、2度の送球のやりとりのあと、Kがキャッチャーへ送ってタッチアウト。これまでのKなら緊張して悪送球していたかもしれない場面だが、この日は違った。


4回裏には、三遊間を抜けそうな当たりを止めて一塁でアウトに。打っても5回にダメ押しのツーベースを放った。

最終回、苦手にしていた前に出て捌くゴロも、もう迷わなかった。難なく処理して先頭打者を出さない。この日のKの守備は完ぺきだった。



雲が晴れた笑顔と胴上げ

試合は出場した選手全員が活躍し、10-1で大勝した。試合後、全員が「楽しかった」と声をそろえる中、Kはひときわ高く手を挙げて喜んだ。1カ月曇っていた顔は、雲が晴れたような笑顔に変わっていた。



この日のMVPは満場一致でK。最後はみんなでKを胴上げした。


最後まで迷いながらもKを信じた監督も、本当は自分も胴上げしてほしかったに違いない。

ただ、監督は重たいので胴上げはしなかった。

監督の胴上げは、2試合後の決勝戦で勝って優勝するときまでお預けだ。


 
 
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